稼ぐことは、悦ばなかった。むろん、馬は欲しいのであったが、そんな風にして四十銭五十銭と持ち帰る金で馬など容易に買えるものではなく、幾度も幾度も怪我人を出していることを聞くと、伝平は、やはり、耕平を出してやる気にはなれなかった。併し、耕平は、いつの間にか、父親に隠れるようにして、砂利貨車に働いているのだった。
「お母《か》あ! お父《ど》うさに言うなよ。お父うは、馬一匹買えるだけに、金を蓄《た》めてから知らせるべし。」
 耕平はそう言って、五十銭ばかりずつ賃銀を、母親のところへ運んで来た。それは、籠に水を汲み溜めようとするようなもので、穴だらけな生活の中へ消えて行ってしまうのであったが、父親も母親ももう、耕平が砂利貨車に働くことを止めようとはしなかった。そして母親は、耕平の肩に、成田山の守護札などをかけてやった。
 併し、そんな風にして一ヵ月ばかりも過ぎたころ、耕平は、進行中の貨車と貨車との間に墜落して、胴体を切断された。殆ど即死であった。父親の伝平も母親のスゲノも、驚きだけが先に来て、涙も出なかった。遣《や》る瀬《せ》の無い悲しみの涙がじめじめと頬へ匐《は》い出して来たのは、耕平が死ん
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