伝平の、馬に就いての危なっかしい知識や技術は、最早《もはや》、彼の生活を幾分かは助けているのであった。
       *
 伝平は二十三歳で結婚した。
「俺あまだ女房なんか早え。そんなことより、まず、馬を買う算段をしなくちゃ。馬のいいのを一匹飼って、それから……」
 伝平はそう言っていたのであったが、母親が眼に見えて老衰して来て、飯を炊くのにも困るようなことになったものだから、両親が否応なく押しつけてしまったのであった。
「ほう! 伯楽も、馬々って、馬をほしがっていだっけ、駒馬《こまうま》さは手が届かなかったど見《み》えで、牝馬《だんま》にしたで。」
 部落の人達はそんなことを言った。
 併し、いずれにもしろ、伝平はそれで落ち着いた。そして、それから間もなく、伝平は、一匹の馬を飼うことが出来るようになった。自分の所有になったのではなかったが、高利の金を貸している高木のところで、抵当流れとして取り上げた南部産の駒を、伝平のところへ預かったのであった。伝平の生活は再び活気づいて来た。
「立派な馬だなあ。こんな立派な馬を、俺家《おらえ》さ飼って置げるなんて、神様のお授けのようだなあ。粗末には
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