人ごとに、馬に就いての話をした。除隊の挨拶に廻りながらも、伝平は、部落中の馬小屋を、片《かた》っ端《ぱし》から覗いて歩いた。
「おおら! おおら! おおら!」
そんな風に声を掛けながら、伝平は、軽く肩のところを叩いたり、無雑作に口の中から舌を掴《つか》み出したりするのだった。
そして、それからというもの、部落の馬が、病気をしたり怪我《けが》をしたりすると、伝平は、仕事を投げ出して飛んで行くのだった。伝平はいつの間にか、幾種類かの薬品や、繃帯《ほうたい》や脱脂綿などまで持っているのであった。部落の人達も、馬で困ることがあると、すぐ伝平のところへ相談に行くようになった。伝平はすると、例えば自分の家が燃えかけているようなときでも、きっとすぐ出掛けて行くのだった。
部落では、いつの間にか彼を(伝平)とは呼ばずに(伯楽《はくらく》)と呼ぶようになっていた。伝平はそして(伯楽)と呼ばれることが限りもなく嬉しいらしかった。部落の子供達などは、伝平を、馬の医者のように信じきっているのであった。馬の爪切り刀などまで買い求めて、農閑のおりなど、部落の馬小屋を廻って爪を切ってやったりするからであった。
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