の人達は眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》るようにしてそんなことを言うのだった。
「伝平の野郎は、なんでも、馬小屋さ寝てるって話だぞ。馬を女房にしてるんだってさあ。」
 部落にはそんな噂《うわさ》まで立った。
 併し、伝平の馬は、翌年の早春、腸を病んで急に死んだ。飼料の用意が十分でなかったところから、生《なま》の馬鈴薯を無暗《むやみ》と食わしたので、腹に澱粉の溜まったのが原因だった。伝平は酷《ひど》く落胆した。彼は失神の状態で、幾日も幾日もぶらぶらと、仕事を休んでいた。どうかすると、両の眼にぎらぎらと涙を溜めて、空間を凝《じ》っと視詰めているようなことがあった。
       *
 徴兵検査で、伝平は、輜重輸卒《しちょうゆそつ》に合格した。
「馬が好きであります。」
 伝平はそう、遂《つい》、うっかりと、正直に答えたのであった。
「馬が好きか! ふうん! それはいい。併し、騎兵には少し丈《たけ》が足りないから、輸卒がいいだろう。」
 伝平はそして、三ヵ月間の兵営生活を送って来たのであったが、彼はその三ヵ月の間に、馬に就いての知識をどっさりと仕入れて来た。伝平は、会う
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