った。父親も母親も、もう何も言わなかった。
「伝平の野郎には叶《かな》わねえ。」
父親は暫くしてから欣びに蠢《うごめ》くような低声《こごえ》で呟《つぶや》いた。
伝平は、老耄《おいぼれ》の痩馬《やせうま》を、前の柿の木に繋《つな》いで置いて、すぐ馬小屋をつくりにかかった。柿の木の下に四角な穴を掘り、近くの山林から盗伐して来た丸太を組み立てて、その周囲には厚い土塀を繞《めぐ》らしたのであった。それには父親も母親も黙々として手伝った。その掘っ立ての馬小屋は、そして、馬小屋であると同時に、そこですぐ堆肥《たいひ》をも採れるようになっていた。
伝平は急に活き活きして来た。娘から母親になった女のように、伝平は、自発的に働くようになって来た。薄暗いうちに起きて飼料を刻んだり、野良へ働きに出ても葛《くず》の葉や笹の葉を持って帰るとか、伝平は急に大人びて来た。夜なども、馬のことが気になってろくろく眠れないというような具合で、伝平は、母親がその病児を養うようにして馬の面倒《めんどう》を見ているのだった。そして、老耄《おいぼれ》の痩馬は、次第に肥り出して来た。
「好きな者には叶わねえなあ。」
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