の、値段も知らねえんだなあ。この馬だって、普通なら、五十円か六十円はするのだぞ。三十円だっていうから、俺、安いと思って買って来たのだ。」
「三十円? こんな痩馬がか?」
「何か言ってんだか! 痩馬だって、骨まで痩せてるわけじゃあるめえし、飼料《もの》せえちゃんと食わせりゃあ、今にゴムマリのようになっから見てろ。肥えてる馬なんかなら、誰が、買ってくっかえ。面白くもねえ。」
「そりゃあ、生きてる馬だから、肥《こえ》っかも知んねえが、それにしても、骨と皮ばかりでねえか? 俺なら、こんな痩馬さ、三十円は出したくねえなあ。余ってる金でもある時で、十円ぐらいなら、買うかも知れねえども。」
「伝平は、本当に、なんて無考えなことをしんだか。三十円もあったら、ふんとにどんだけ楽だかわかんねえのにさ。馬なんか買って来たって、どこさも、置くとこもねえじゃねえか?」
母親もそう不平がましく呟《つぶや》いた。
「お母《が》あ! 銭《ぜに》なら、まだ残ってるのだぞ。」
伝平はそう言いながら、胴巻きの中から蟇口《がまぐち》を取り出して、母親の前へぽんと投げ出した。蟇口の中には、まだ二十何円かの金が残っているのだ
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