ごと》のように言うのだった。
「お父《ど》う! 馬は大丈夫だあ。馬は大丈夫だからお父うばかり……」
 女房のスゲノは伝平の耳に口を当てて言った。
「大丈夫か? 耕平が大丈夫ならいい。俺はもう先のねえ人間だ。耕平が助かればそれでいい。俺など構ってねえで、汝《にし》あ、耕平の方さ行ってやれ。」
 伝平はそう譫言《うわごと》のように言い続けながら三日目に死んだ。
[#地から2字上げ]――昭和七年(一九三二年)『新潮』八月号――



底本:「佐左木俊郎選集」英宝社
   1984(昭和59)年4月14日初版発行
初出:「新潮」
   1932(昭和7)年8月号
入力:田中敬三
校正:小林繁雄
2007年7月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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