ら言った。青年紳士は二人を置いて前へ前へと地面を蹴って行った。
「私達ね、会社の人達と、ちょっと集まることになっているのよ。伸ちゃんも一緒に伴《つ》れて行きたいんだけど、場所が場所だから、伸ちゃんは先に帰ってよ。ね!」
伸子は、突然に突き飛ばされたような気がした。
「場所がカフェでなければ、一緒に伴れて行くんだけど……」
「いいわ。私一人で帰っているわ。」
明るい声で伸子は言った。そして二人は青年紳士の後を追って小走《こばし》った。
青年紳士は、とあるカフェの前に蒼紫《あおむらさき》のネオンサインを背負って立っていた。
美佐子はすぐにそれを見つけた。
「じゃ、先に帰ってね。」
美佐子はそう宥《なだ》めるように言って、青年紳士の立っている方へ駈《か》けて行った。青年は煙草を挟《はさ》んだ手を眼のところまで上げて、微笑《ほほえ》みながら伸子への挨拶を送っていた。
六
夜更《よふ》けになっても姉の美佐子は帰って来なかった。伸子は寂しい気がした。伸子はふらふらと街へ出て行った。靄《もや》を罩《こ》めた街を、伸子は、あのネオンサインのカフェの前まで来ていた。伸子はそこの
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