思わずにはいられなかった。
「子供の癖《くせ》して、変に気を廻すもんじゃないわよ。伸ちやんを幸福にして上げたいと思うからこそ、わたし、こうして徹夜までして働いているんじゃないの?」
美佐子は怒《おこ》ったようにして言った。
「姉さん!」
「? ? ?」
美佐子は眼だけを向けた。伸子は併し、何も言うことが出来なかった。
「伸ちゃん! なんなの?」
「わたし、わたし、私もう……」
伸子は急に泣き出した。
「私、田舎の叔母さんのところへ帰りたいわ。そして私自分で働きたいの。」
伸子は顔を伏せて泣きながら言った。もちろんそれは伸子の言おうとしていたことではなかった。伸子はその言葉に隠《かく》れて泣き続けた。
四
誰か軽く扉を敲《たた》いた。彼女達は同時にそのノックの音の方へ顔をむけた。その瞬間に、扉が外から開いて、洋服の青年紳士が顔を突っ込んだ。
「おい! 房子さん! まだかい?」
青年は美佐子を別の名で呼んで言った。
「あら! もう、そんな時間なの?」
美佐子はすぐに立って行った。美佐子は何もかも忘れて、暗い空気の中で伸子と話していたのだった。
美佐子はあわてて
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