姉の職業に対する伸子の疑惑は、遙かの以前から、落下する物体のように加速度をもって継続して来ていた。それは姉の美佐子が、時折、他所《よそ》に泊まって来るところから出発した。それに、美佐子の生活は、伸子の眼から見れば相当に贅沢《ぜいたく》なものであったから。
 伸子は最初、姉は商事会社のようなところへ、女事務員として務めているものと信じていた。従って、彼女は姉と一緒に生活をするようになっても、そこから女学校に通おうとは思っていなかった。自分もどこかに務めて、そして、姉と一緒に暮らして行こうと、伸子は考えていたのであった。
 ところが、そこには幸福な楽園の生活が待っていた。伸子は務める必要がなかったばかりか、彼女は女学校へ通わしてもらうことになったのであった。そして姉は毎日務めに出て行った。遅くなって帰ることが始終だった。
「会社の方、今とても忙しいのよ。」
 美佐子はそんなことを言った。
「遅くなって、伸ちゃんには気の毒だけど、でもまあいいわ。その代わり手当をたんともらえるんだから、今にいい着物《きもの》を買って上げてよ。」
 そんな風に美佐子は言った。そしてどうかすると美佐子は泊ま
前へ 次へ
全11ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング