であった。
「そうで有《が》すべかね?」
「どうも僕なんかには、東京は適当《むか》ねえようだね。うるさくって、うるさくって。あれじゃ、気が荒くなるのも無理はねえですよ。ちょっと電車へ乗るんだって、まるで喧嘩腰だもの。――さあ、どうです一本……」
竜雄は、ポケットから「敷島」の袋を取り出して、梅三爺にすすめた。
「あ、宜《い》がすちゃ、宜《い》がすちゃ。」と、梅三爺は辞退して、「ヨーギ、其処《そっ》から、どらんこ[#「どらんこ」に傍点](煙草を入れる佩嚢《どうらん》)持って来う。――ほして、汝《にし》も少し休め。うむ、ヨーギ。」と一本の小さな栗の木を指《さ》しながら言った。
鎌を持って立っていたヨーギは、向こうの栗の小枝にかかっている佩嚢《どうらん》を取りに駈けて行った。その間竜雄は、無言のまま梅三爺の前に「敷島」の袋を突き出していた。
「や、これはこれは、どうもまあ……」
梅三爺は勿体《もったい》なさそうにして、恭《うやうや》しく一本の煙草を抜き取った。併し、抜き取っては見たが、この貴重なものに、火をつけたものかどうかと、暫く躊躇《ちゅうちょ》の様子を見せた。その間に竜雄は、無雑
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