の地帯は、部落中での優良な耕作地であった。此処に三人の地主が巣を喰い、八九家族の小作百姓が生活の大半を托していた。
処が、耕作のために年十五円で貸していたその土地を、坪当り月五銭で借り度いと云う借手が出て来た。住宅地にするのである。十五円の貸地代は、一躍八十円にまで飛んだ。
貸地代によって生活している地主達にとって、耕作価値など全然問題ではない。彼等の知っているのは、所有価値だけである。その土地が、どんな目的に使われようと、唯地代が多ければ地主達はそれでいいのだ。彼等は何んの躊躇もなしに、小作人達からその耕作地を取上げ、そして更に地代を上げて、借手の出るのを待つことにした。
「併し、われわれはどうすればいいんだ? 手前等は、そんで地代が余計這入って来るようになったからよかんべが、一体、われわれは何処から食う物を掘出せばいいんだ?」
斯うそこの小作人達は叫んだ。
「けれども、私等にしたところで、月十五円で貸してくれと頼まれている方を断って、年十五円の方の口さ貸して置かねばならんと云うこともあるまいからな。せめて、あんたらが、その三分の二位の地代でも出してくれると云うのなら格別として
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