さり喰べたと云うわけでもあるまい。」
「人口が殖えたからであります。」
「うむ。それもたしかに一つの原因だ。はいっ!」
「田舎の人が、百姓を廃《や》めて、誰も彼も町へ行って商人になるからであります。」
「それもあるだろう。他に……」
「工業が発達して来たからであります。」
 ガザガザアン!
 凄まじい音が建築場で撥ねた。混凝土捲揚機の樋がはずれたのだ。空で鳴っていたクレインの音が止み、人夫等が呶鳴《どな》り合い騒ぎ合った。
「おおっ!」
「どうしたんだろう?」
 生徒達は総立ちになって窓に眼をやった。
「騒ぐんじゃない。騒ぐんじゃない。」
 教師は鞭を撓《たわ》めながら、教壇をおりて、ゆっくりと窓際へ歩み寄って行った。

       一

 部落《むら》の中央部に小高い台地の部分があった。
 台地の一帯は、南向きの斜平《なだらか》な斜面《スロープ》になっていた。そして、西から北にかけては、厚い雑木林がうねっていた。その青い雑木林のところどころから、黒い杉杜がぬいていて、例えば空から続く大きな腕のように、台地の斜面を抱き込んでいた。
 赭土の飛沫を運ぶ春先の暴風に、自然の屏風を備えたこ
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