だ。これは前にも言ったように、人家の建混んでいる都会の色、市街地の色なのであるから、この地図の上で、当然この色が塗られていなければならない部分に塗り落されているように思うが……誰か、わかる人?……」
「市街地は学校の前まで膨《ふく》らんで来ているのに、地図の上では、用水堀のところまでが市街地のようになっているのであります。」
「よろしい! そうだ。去年の今頃は、市街地はまだ用水堀のところまでしか膨らんで来ていなかった。そしてこの学校は、この地図の上でもわかるように、青い麦畠の真中にあった。ところが市街地は僅か一年の間に、丁度、校長先生のお腹のように、斯《こ》う弓なりに学校の前まで膨らんで来た。そしてこの小学校は、田舎の小学校だか、都会の小学校だかわからなくなって了った。」
 教師は言いながら、煉瓦色の白墨で、地図の上に一本の彎曲線を描いた。生徒等は忍び笑いをして、低声《こごえ》に囁き合った。
「騒いではいけない。さあ、此方を見て……」
 彎曲線の内部は煉瓦色で塗り潰されていた。
「ところでと、一体、どうして市街地は、斯うどんどん拡って行くのだろう? まさか校長先生のように、御馳走をどっ
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