」
「やっぱりな。やっぱり、じゃ、工場だなんて大きな顔していても、景気はよくねえんだな?」
「工場は景気がいいんだ。工場の方じゃ、どんどん儲かって、又、分工場を建てるって話だからな。われわれ、そんで黙っちゃいられなくなって来たわけさ。幾ら工場の方が大きくなったって、われわれの賃銀は一向あがらねえんだからひでえや。」
「大きくなるもの、大きくなる一方だ。われわれは又われわれで……」
「今度の分工場ってのは、とても大きいらしいんだ。そら、甚吉さんの耕《つく》っている畠のところに、川に沿うて桑畠があるな。なんでもあそこらしいって話だぞ。」
「俺の畠のとこへ建てるって? 一体、工場の野郎共はなんと云う野郎だべ! この俺を、一体、何処まで追払うつもりだんべ? あそこへ工場が出来れあ、俺の耕ってる畠なんか、住宅に貸すからって、直ぐ又取上げられて了うのだから……」
甚吉は眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》りながら、急に、狂人のように叫び出した。
「だからよ。甚さん! 工場はそうして大きくなって行くのに、われわれは一向に……」
「一体、何処まで手を拡げて行くつもりなんだ? あんな
前へ
次へ
全23ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング