きながらも、耕作のためには貸してくれなかったからだ。
「なあに、工場さ通って、飯せえ食いれあ、われわれに取っちゃあ、何方だって同じごったから……」
「わたしゃあ、どんなことしたって、そこえらの工場だけは行かねえ。面白くもねえ。一体、何んの機械を拵えんだか知んねえが、食う物の湧いて来る土地を潰してそんな工場なんか建てやがってさ。最後に、その機械でも食ってるつもりか? 俺は矢張、何処までも百姓を続けるだあ。」
 甚吉は斯う言って、隣り部落の方へ移って行った。そして又そこで、ささやかな小作百姓を続けていた。その甚吉の気持が、工場へ行った重次郎には判然と呑込めなかった。
「甚吉さあに言わせるど、食う物を作るのが一番いいことになるが、工場だって同じごってねえか? なあ、おうい! 例えば、百姓仕事に使う機械だったら、その機械を、他の土地で使ってさ、その土地からうんと収穫があるようにしたら、そんでいいわけだからな。そのために少しばかりの耕地を潰したって、百姓をやめて職工になるものがあったって……」

       六

 隣り部落へ移って行った小作百姓の甚吉に取って、以前に自分の住んでいた部落であっ
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