彼等は市街地から、自分達の不調和な茅葺屋根の家を掻消して、新らたに瓦屋根の邸宅を構えた。それが現在の彼等の生活に、最もふさわしい居宅であった。土地の所有価値が暴騰して来たため、地主の彼等は、何等職業らしい職業を必要としなくなっていたからである。
 そして金平や栄三や豊作など、自作百姓だった人達は大抵、道路を控えている自分の所有地の片隅へ店を開いた。資金の余裕につれて貸家を建てて行った。
「今度、店を開いたんですがね。なあに、百姓をしていたと思えば、そう儲けなくてもいいんですから……」
 彼等はそう言って、住宅から住宅へ、葉書ほどもある大きな名刺を配って歩いた。
「若し、知ってる人で、土地を借り度いって人がありましたら、他所より、地代をまけて置きますから。」
 斯う、彼等は、屋敷続きの荒地のことも忘れてはいなかった。
 全然自分の耕地を持たなかった小作百姓の重次郎や長助ら七八人の者は、何処かへ移って行かないかぎり、近くの工場へでも這入って働くより途がなかった。住宅や工場のために、自分達の耕していた土地が完全に取上げられて了ったからであった。そして土地の所有者達は、その土地を荒して置
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