、第一の幹線が通された。併し、地主達の予定通り、それだけでは済されなくなって来た。そこえら一帯の自作百姓達は、誰も彼も、自分の地所の中に道路を通したい希望を持っているからであった。
「土地の発展のためだ。五十坪や百坪、道路にされたって仕様ねえ。」
彼等は進んで道路のための土地を寄附した。その新道を前にして、新しくその附近へ移り住んで来る人達を相手の、新しい店を開こうと計画しているからであった。そして更に、新道を控えたその辺一帯の土地が耕作価値から所有価値へ、無限に騰貴して行くからであった。
そのために、市街地から住宅分割貸地への四間道路を幹線にして、そこから直角に走る二間道路が、幾本も幾本も開かれた。
「馬鹿馬鹿しい! 土地を寄附してまで道路を開かせてさ。自分の耕す土地を無くなすなんて……」
斯う言って小作人の甚吉は、白い眼でそれを見るようにした。
「だって、あの人達は、その方が得なんだべから……」
「得かも知んねえが、得だから得だからで、耕す土地を皆んな町場にして了ったら、人間は一体、何を食ってればいいんだよ? 町場になって、工場が出来たからって工場からは食うものが出来めえ?
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