手を置きながら言った。
「やんちゃ[#「やんちゃ」に傍点]でしょうがないのよ。」
「おばちゃんに、接吻《キッス》をして頂戴よ。ねえ! 接吻をして頂戴よう。」
 静枝は恵子の肩を軽く掴《つか》んで頬摺《ほおず》りをするようにしながら言った。
「ねえ! 接吻をして頂戴よう。厭なの! 厭ならいいわ。」
「静枝さん! 何をするの? そんなこと止《よ》して頂戴!」
 三枝子は恵子をぐっとひったくった。
「まあ! どうして?」
「――どうして? もないわ。それを私に訊《き》くの?」
「だって、あたし、わからないわ。」
「私、何も知らないと思っているの? あなたとはもう、絶交よ!」
「絶交?」
「もちろんよ――接吻泥棒《キッスどろぼう》!」
「接吻泥棒?」
「知らない!」
 併し三枝子は、驚いている恵子の手を引いて、自分の家の方へと、ゆっくり[#「ゆっくり」に傍点]歩き出したのだった。――いくらでも闘ってやる!

     三 媚を売る街

 三枝子は宵から市内に出て行った。
 勝手な自分の生活を持っている夫に対しては、最早《もはや》、自分だけがその責任を負っていなければならない筈が無いと思ったから
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