「遊びに、いらっして下すったの?」
「…………」
 静枝は癖で、笑いながら頷《うなず》いた。
 三枝子は静枝が自分の前へ来るまで、孔雀《くじゃく》のように着飾っている絢爛《けんらん》な彼女の着物を観察した。それが三枝子には一つの驚異だった。自分と同じ社に勤めていて、殆んど同じほどの給料を貰っていて、そして夫を養いながらどこからこんな余裕が湧くのだろう? 自分をあの社に紹介して引き入れてくれたほどだから、自分より静枝の給料の方が多いには相違ないが、そんな余分のある筈はない! 自分達に比べると、母親もなく子供も無いためなのかしら? と三枝子は思うのだった。
 恵子は静枝の足|許《もと》までよたよた[#「よたよた」に傍点]と駈けて行った。
「まあ、恵子ちゃん、大きくなったのね。」
 静枝はそう言って蹲《しゃが》んだ。
「静枝さん。ゆっくりして行っていいんでしょう?」
「ちょっと失礼するわ。」
「あら! どうして?」
「廻らなければならないところがあるのよ。」
「どこへいらっしゃるんですの?」
「約束があるのよ。ちょっと、この先に。――恵ちゃん、本当に大きくなったのね。」
 静枝は恵子の肩に
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