秋草の顆
佐左木俊郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)言葉を交《か》わさずに

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)手|真似《まね》で語り合って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)はい[#「はい」に傍点]だって。
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 寡黙と消極的な態度とは私達一族の者の共通性格と言ってもいいのだ。私は郷家に帰省して、二三日の滞在中、殆んど父母と言葉を交《か》わさずに帰って来ることが少なくなかった。父もまた、田舎《いなか》からわざわざ私達に会いに出て来ながら、妻の問いに対してほんの二言か三言の答えをするだけで、私とは殆んど口をきかずに帰って行くことが多い。別に私達親子の間の愛情が薄いからというわけではないのだ。私が、父の顔から父の言葉を聞くことが出来るのと同じように、父もまた私の顔から私の言葉を聞き取ってくれるのだ。私達はだからお互いに顔を見合わせればそれでいいのである。私達のそういう性格は、だが、しばしば他人からの誤解を受けて来た。他人から物事を頼まれると、それを断ることの出来ない性分《しょうぶん》なので、そういう場合には
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