ら、書生代わりにもなるだろうから従弟の峻《たかし》を置いてやってはどうかという手紙があったので、私達は歓迎して置いてやる意味の手紙を伯父へ書いたのではあったが、それにしても、ただ頭をさげるだけで一言も挨拶の言葉を口にしない伯父の態度を、妻はひどく驚いたらしかった。田舎から持って来た土産物《みやげもの》なども、唸《うな》りでもするかのように、「これ」とか「ほら」というようなことを口の中で言っただけで、別段それに就いて説明などはしなかったものだから、妻は「全くの唖《おし》というわけで無いんですもの、どうして食べるかぐらい、ちょっと一言《ひとこと》教えて下さるといいのに……」と言うのであった。
*
従弟の峻もまた、甚だしい沈黙家で、最初の「ではどうぞ!」という挨拶さえ言うことが出来なかったほどだ。そして朝になると、誰へ挨拶するということもなく、ごそごそと学校へ出かけて行って、夕方になるといつの間にか自分の部屋へ帰っているという風であった。私とは、何時間という間を対《む》きあっていても、互いに言葉をかけあわないのはもちろんであったが、私の妻が話しかけることがあると彼は徹頭徹尾「
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