の手の上に、ゆらゆらと銀光の陰影が絡《から》んだ。
蝋石のように白く、靭《しなや》かに細長い婦人の指を、彼は興奮状態で視詰め続けた。話をどう切り出したらいいだろう? あの指に、この指環を嵌《は》めてもらうのに、どう言って頼むべきだろう? そんなことを考えて胸を跳らせながら……。
「おいくらです?」
婦人の手はコオトの中に潜《もぐ》り込んだ。その手はすぐに、帯の間から蟇口を銜《くわ》えて来た。そして婦人の指は白い鳥の嘴《くちばし》のように、蟇口の中から銀貨を啄《ついば》んで女給の前に吐いた。――彼は、仏蘭西へ渡る際に見た彰子の手よりも、より美しく立派な指を初めて見るのだった。
婦人は、鼠色の手袋を袂《たもと》の中に押し込んで立ち上がった。カッフェを出ようとするのだ。彼はそれを見るとあわて出した。彼は急にポケットに手を突っ込んだ。
「おい! 勘定だ。ここへ置くよ。」
彼はテーブルの上に一枚の紙幣を投げつけて、婦人の後に引き付けられるようにして出て行った。
婦人は銀座の舗石道《ぺーヴメント》に出た。青や赤や黄や薄紫の燈光がゆらめく中に、漫歩する人々の足音が賑かに乱れていた。婦人は
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