の? さあ、私が指を見せて上げた代わりに、あなたの持っている指環を見せてよ。」
「指環はいくらでも見せてやるがね。」
彼は再びチョッキの内ポケットから指環を取り出して女給の手に渡した。
「まあ、なんて綺麗な立派な指環なんでしょう。」
「この小さいのも、皆んな真珠とダイヤだわよ。」
彼女達は顔を寄せ合わせて指環を観賞した。
「幾ら立派でも綺麗でも、どうせ指環なんてものは、第二義的なものさ。綺麗な指に嵌《は》めてこそ価値があるものなんだ。」
「凄いわね。」
「私、なんだか、恐いようだわ。この指環!」
「恐い? 立派な指さえ持っていれば、恐くなんかありゃしないんだ。さあ、いいかげんにして返してくれ。」
指環は燦然《さんぜん》と輝きながら彼の手に戻った。
「この指環の恐くないような指を持った女は、この東京中にいないんだ。みんな、つまらない指を持った女ばかりだ。」
彼は叫ぶように言って、指環をチョッキの内ポケットに蔵《しま》った。そして、冠っていたソフトを取ってテーブルの上に叩きつけた。
「一人として、素晴らしい指を持った女がいないなんて……」
彼は唇を噛みしめるようにしながら横を向い
前へ
次へ
全13ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング