無くなっても、局部に残る神経が、未だその機能を失ってはいないのだなと思った。死んだ鮎《あゆ》を焼くとピンとそりかえったり動いたりする……、鰻《うなぎ》を焼くとぎくぎく動く、蚯蚓《みみず》を寸断すると、部分部分になって動く……。
 豚も、額《ひたい》をガンとやられて、首をごそごそとやられたら、手や足や、身体全体を、ひくひくと顫《ふる》え動かして苦しむだろう……と彼は思った。それを思うと、あの無邪気そうな豚を、自分の手で殺すのは、いくら金になっても厭な気がした。仲田は、ころりっと死んでしまうと言ったが、粘土細工じゃあるまいし、倒れたが最後そのまま動かなくなる筈《はず》が無いと思った。その他に自分の食って行く道が無いというなら仕方も無いが。
 蟻は一匹の王を戴《いただ》いて毎日朝から晩まで働いている。一匹も怠《なま》けるものがなく、そして大きな仕事にぶつかれば大勢一緒になってそれに掛かる。皆仕事を持っているから一匹として生活の不安を抱いているものが無く働いている。この共産主義的蟻の社会には、怠ける者も狡《ずる》い者も王者を倒そうとする者も無いから、立派に成立して行く。人間にもこうした不安の無
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