奴《やつ》、おれらが畑から来たとき、ここにいて先生の服をいじってたっけが……」
「田中はどこへ行った?」
「田中は落ち葉を運んでいったから、いまに帰ってきます」
落ち葉を運んでいった六、七人の生徒が駆け戻ってきた。その中に田中が交じっていた。
「田中くん。先生の蟇口を知らなかったか?」
級長の杉村《すぎむら》が田中のほうへ歩み寄りながら訊《き》いた。
「きみはぼくらが畑にいるうちからこっちへ来て、いちばんにこっちへ来て、先生の洋服を弄《いじ》っていたそうじゃねえか?」
「ぼくはね、ぼ、ぼ、ぼくはね、先生の洋服を、ま、ま、窓へかけてやっただけだよ。ただ、窓へかけてやっただけで、弄らねえよ、ぼくは」
「では、先生の服は落ちていたのかい?」
吉川訓導は級長に代わって訊いた。
「はい。お、お、落ちていました。そして、ど、ど、ど、どこかの犬が咥《くわ》えて歩いていましたから、そ、そ、それを取り返して、ま、ま、窓へかけておいただけです」
「うむ……」
吉川訓導は軽く唸《うな》って、田中の顔を見詰めた。
「吉川訓導、どうかなさいましたの?」
鈴木女教員が窓から首を出して言った。
「え、蟇口
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