むようにしてポケットの中へ手を突っ込んだ。
房枝は鈴木女教員がポケットへ手を突っ込んだちょうどその時、顔を上げて彼女の後姿を追ったのだった。そして、房枝はもう少しで叫び声を上げるところだった。自分のもっとも敬愛している鈴木先生が、そこの窓にかかっている他人の洋服のポケットに手を突っ込んで何か探しているのを見たからだった。のみならず、鈴木先生がそのポケットの中に探り当てたものを、素早く自分のポケットの中へ押し込んだからだった。房枝は見てはいけないものを見たのだった。彼女はすぐにまた机の上に顔を伏せてしまった。胸がどきどきと騒ぎだしている。
「房枝さん、房枝さん」
鈴木女教員はまた房枝のところへ戻ってきて、その肩を叩いた。
「房枝さん、どうかしたの? え?」
「頭が痛いんです」
房枝は真っ青な顔を上げて言った。
「頭が痛いんですって!」
鈴木女教員は房枝の額に手を当てて熱を診た。
「熱は大してないようね。脈は?」
彼女は脈を診たり、心臓に手をあててみたりした。
「脈が少し多いようね。あら、心臓がばかに早いじゃないこと? こうしていても大丈夫なの? 何かお薬を持ってきてあげましょう
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