のだ! 彼は心の中でそう叫んだ。
「では本を閉じて……。午後からは農業の実習をやります。ちょうど運動場にひどく木の葉が散らかっているから、これを掻《か》き集めて堆肥《たいひ》の作り方を練習……」
 生徒たちが、わっ! といって騒ぎだした。
「あああ、そう騒いではいけない。運動場の落ち葉を掻き集めて堆肥を作ると、第一に運動場が奇麗になるし、第二には材料費がいらないし、堆肥ができて、堆肥の作り方が覚えられて……」
 生徒たちは一度に笑いだした。
「それで、まず穴を掘らなければならないから、食事が済んだら鍬《くわ》やシャベルを持ってすぐ裏の畑へ集まる。落ち葉のほうは運動場に埃《ほこり》が立つから、午後の授業が始まってからやること。では、すぐ弁当を食べて……」
 こう言って、吉川訓導は教室を出ていった。
 生徒たちはそれから十五分ほどして、裏の畑へ集まっていった。吉川訓導も両手をポケットに突っ込んで教員室を出ていった。そして、吉川は第七学級の教室の前まで来ると洋服を脱いで、窓枠に打ちかけた。

       3

 風が少しあった。窓の前で、落ち葉が金色や銅色に光って散っていた。午後の陽《ひ》
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