はまた農業の実習に引き出された。堆肥で馬鈴薯《ばれいしょ》を植え付けようというのだった。
高津校長がそれを教えていた。
「先生、この堆肥の中に蟇口がありました」
生徒の一人が、高津校長のところへその蟇口を持っていった。
もはや生徒らは、去年の秋のあの事件を忘れているのだった。
「うむ、どれ」
校長は怪訝そうに眉《まゆ》を寄せてそれを受け取った。
その蟇口の革は鋭い歯で噛まれたらしく、ぐしゃぐしゃに傷んでいた。中には五円札が一枚、一円札二枚、それから銀貨や銅貨を取り混ぜて約八円ばかりの金が入っていた。が、その札はぐしゃぐしゃと何かに噛まれたに相違なく、ほとんど穴だらけになっていた。
そして一枚、同じように歯の跡のついた本屋の受取りが入っていたが、それには、
『吉川先生さま』
と書いてあった。
「あ、これは吉川先生の蟇口だ。堆肥を作るときもっとよく切り返していれば、あの時すぐ見つかったのに……道理で悪い堆肥だと思ったら、そんな乱暴な切り返しをしているから。……堆肥というやつは切るときに、こういうものが入っていてもすぐ見つかるくらいに切り返さなければいけないんだよ」
高津校長
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