二人の自殺がそこにあるのですから。そしてわたしは、責任上教育界から身を退《ひ》くつもりです」
校長はそのことについて、なにも言わなかった。吉川訓導が教育界から身を退くということを止めもしなかった。そして、その事件の内容の一部が発表されたに過ぎなかった。
それから一か月ほどして、鈴木女教員が言ったとおりに吉川訓導は結婚式を挙げたが、その時は彼は小学校の教師ではなく、ある山里の豪農の若主人だった。結婚の予定を決して変更しなかったのは、自分の卑劣を覆い隠そうとしているのだと思われたくないがためだった。鈴木女教員の遺書の事実は肯定し、無実として否定すべきところを否定したと思われたいという気持ちから、無理にも予定どおりに鈴木女教員の言ったとおりにしたのだった。
鈴木女教員の代わりの教員が来、吉川訓導の代わりの師範学校出の先生が来て、丘の中腹の学校は元どおりの、内に波瀾《はらん》を孕《はら》んだ表面の平和を続けていった。
運動場が雪にうずめられ、教室の中の火鉢のほとりでおりおり、生徒たちの間に鈴木女教員と千葉房枝のことが話されたりした。
雪が消えて畑の土が温かくなってくると、高等科の生徒
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