木女教員の葬式のあった晩、吉川訓導は高津校長の自宅へ呼ばれていった。
「吉川くん、ほかじゃないが、千葉房枝の自殺と鈴木女教員の自殺についてのことだ。しかし、ぼくの口からはなにも言いたくない。まあ、これを読んでくれれば分かる」
 高津校長はこう言って、吉川訓導に鈴木女教員が自分に宛てた遺書を読ませた。
 読んでいくうちに、吉川訓導の顔色はだんだんと変わっていった。その手が小刻みに顫えた。彼は唇を噛んでそれを読みつづけた。
「校長先生。いかにも卑劣なようですが、事実として、この鈴木女教員の遺書の中に一か所だけ、弁明しておかなければならないところがあります」
 彼は読み終わると、顫える声で言った。
「この蟇口のことですが、これは事実なくなったんで、決してわたしの意識的にやった卑劣な手段じゃないんです。意識的にこういうことをやるくらいなら、わたしから結婚のことを言ってやるはずはありませんから……」
「しかしだね、それはきみの言うとおりとして、学校としての責任をどうするんだね」
「わたしと鈴木女教員の恋愛、つまり自分たちがポケットの中で手紙を交換したことは、発表していただいても仕方がありません。
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