宛てた遺書の一部に過ぎないものだった。
高津《たかつ》先生。長い間いろいろとお世話さまになりました。いつまでもいつまでも先生の膝下《しっか》にお導きを承りたく願っていたわたしではありましたが、悪戯《いたずら》好きな運命の神さまは辛《つら》い永久の別れを命ずるのでございます。
しかし、わたしはお別れに臨んで、悪魔の杖《つえ》によって隠されたる原因をはっきりと申し上げておきたく存じます。わたしの教え子の千葉房枝がみずから果てて間もないのに、わたしがまた同じ運命を辿《たど》りましたなら、さぞかし世間の人々を驚かし、一つの謎《なぞ》を残すに相違ないと存じますから……。
高津先生。先生はわたしがこういう道を選びましたら、やはりこの原因は吉川訓導の蟇口に絡んでいるのだとお思いでしょうか。そうお思いになるのもご無理のないことでございます。そして、直接には実にその蟇口に原因を発しているのでございます。一個の暮口、十円足らずの金銭がこうして二つの魂を奪い、生命を攫《さら》っていくのかと思いますと、膚《はだえ》に粟《あわ》の噴くのを覚えます。
しかし、その表面の物質的なものの裏に、もっともっと複雑
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