れるのです。吉川先生が近々のうちに結婚をなさるそうですけど、吉川先生が結婚をなされば、それで何もかも分かりますから」
「え? 吉川先生が結婚すれば分かるんですって? どういうわけです」
「おかしい話ですけど、吉川先生の結婚が、わたしも房枝さんもそんな人間ではなかったことを証明してくれるのでございます。それまでなにも訊かずにおいてください」
「いや、なにもいますぐ聞かしていただきたいとは申しませんがね」
「わたし、これから房枝さんのお墓へお参りに行って、通じないまでもお詫《わ》びを申してまいりたいと存じますから……」
鈴木女教員は涙を拭《ふ》きながら立ち上がった。
8
鈴木女教員はその晩、房枝と同じようにして自殺をした。房枝が帯をかけた鴨居に帯をかけて首を縊《くく》り、机の上に三本の遺書が置いてあった。
遺書の一本は自分の勤めていた小学校の校長に宛てられていた。他の二本は自分の父親と房枝の父親に宛てたものだった。
校長に宛てられた彼女の遺書は彼女の公開状ともいうべきもので、長々と書かれていた。そして自分の父親と房枝の父親に宛てた遺書の重要な部分は、いずれも校長に
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