どんな感情を抱き合っていたか、いまはそれをはっきりと感ずることができるような気がするのだった。
「でも、房枝さんも、ちょっと思い違いをしている点があるのです」
 しばらくしてから、鈴木女教員は言った。
「わたしが吉川先生の洋服のポケットに手を突っ込んで物を探ったのは本当ですけど、それは蟇口ではなかったのです」
「暮口でなくて、なんだったというんです」
「それはどうぞ、いま、ここでは訊かないでくださいまし。いまに何もかも分かるときがまいります。かわいそうに、この部屋は房枝さんの拷問に遭った部屋ですから、わたしもこの部屋で拷問されたいのですけど、いまはなにも訊かないでおいてくださいませ。あの蟇口をとったのはわたしでもなく、もちろん房枝さんでもなく、それがだれだったかいまに分かるときがまいります」
「いったい、だれなんです! それは?」
「それをお話しするのには、わたしが吉川先生のポケットから何をとったかということからお話ししなければ分からないのです。しかし、わたしはいまのところそれを申し上げにくいのです。わたしの口から申し上げなくても、いまに何もかも分かって、わたしも房枝さんも明るみへ出ら
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