がね。まあ、読んでみてください。娘は、わたしの口からはだれにもなにも言わないでくれと書いてありますがね。しかし、あなたにだけでもこれを見ておいていただかないと、わたしはどうしても気が済まないのです。そしてこれを見てくだされば、わたしの気持ちだって分かってくださるはずだから」
 父親は初め怒りを含んだ声で言いだしたのであったが、言っているうちにだんだん哀れっぽくなってきていた。
「では、ちょっと拝見いたします」
 鈴木女教員はなにげなくその遺書の手紙を読みだした。しかし、読んでいるうちに彼女の顔色は青白くなってきた。手紙を持った手が小刻みにわなわなと顫えだした。そして彼女は、手紙を読み終えると同時に、わーっ! と声を立てて泣いて、そこの畳に顔を伏せてしまった。
「房枝さんがこんな気持ちでいてくれたのに……房さんが……」
 鈴木女教員はそう言いながら啜《すす》り泣いた。
「過ぎ去ったことは仕方がないです。ただ、房枝の気持ちが分かってくだされば、わたしはそれで気が済むというものです」
 房枝の父親は、もはや鈴木女教員を責める気にはなれなかった。父親には、自分の娘と鈴木女教員との間が、お互いが
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