お傍《そば》へまいります。お父さまはどうぞお身体《からだ》を大切にして、達者にお暮らしくださいませ。地の下でお母さまと一緒にお父さまの幸福を祈っております。

 房枝の遺書には、だいたいそういう意味のことが書かれていた。

       7

 房枝の父親は房枝の遺書に頼んであったことを守って、なにも言わずに房枝の葬式を済ませた。しかし、房枝の父はだんだん我慢ができなくなっていった。死んだ房枝のことを考えると、かわいそうで涙が出てきて、どうしても鈴木女教員を責めずにはいられない気持ちになってくるのだった。だが、房枝のああいう遺書のことを思うと、父親は涙を呑みながらも、歯を食い締めて我慢をするのだった。
 毎日朝から晩まで房枝のことばかり突き詰めて考えていた房枝の父親は、房枝の三七日の墓参りの済んだあとでとうとう鈴木女教員を責めに彼女の下宿を訪ねていった。
「鈴木さんは、おいでかね」
 こう言って鈴木女教員の部屋に入っていった房枝の父親は、そこの机で読書をしている鈴木女教員を見るとろくろく挨拶《あいさつ》もせずに、懐から房枝の遺書を取り出した。
「これはわたしの馬鹿《ばか》な娘の遺書です
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