と運動場のほうの窓に、吉川先生が洋服をかけていかれたのです。それから間もなく、鈴木先生が教室に入ってきて、その洋服のポケットの中を探りました。そして、中のものをご自分の懐の中に押し込みました。わたしは目が眩《くら》むほど驚きました。わたしのいちばん好きな、いちばん尊敬している鈴木先生が、そんなことをするのですから。どうぞ、だれにも話さないでください。鈴木先生は悪い方ではありません。きっとあの時、魔とかいうものがさしたのに相違ありませんから。
 午後の授業が始まると、すぐに蟇口がなくなったという騒ぎが始まりました。すると、鈴木先生はご自分がその蟇口を持っているのに、生徒のわたしたちに拾った人はないかと訊くのです。わたしはこの世の中で、わたしがいちばん偉い方だと思っている、わたしのいちばん好きな鈴木先生がそんなことをなさるので、驚いて目が眩んで倒れてしまいました。するとみなさんは、わたしがその蟇口を持っているからだと思ったのです。どうしてわたしをあの時、裸にしてみてくれなかったのでしょうか。
 それからのことは、だいたいお父さまもご存じのはずです。みなさんでわたしを責めはじめました。鈴木先
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