まのないわたしを、お母さまと同じようにかわいがってくださった方なのです。ですからわたしは、お父さまとその方をこの世の中でいちばん好きだったのです。もしかりに、お父さまが他人さまのものをとったことをわたしが知っているとして、わたしの口からお父さまの名を申し上げられるでしょうか? どんなに酷《ひど》い目に遭わされたとて、たとえ八つ裂きにして殺されても、それを申し上げられないことはお父さまもご承知くださることと存じます。あの時に、わたしはお母さまのないわたしを、お母さまのようにかわいがってくださった方のことを、どうしても申し上げられませんでした。
 しかし、わたしはこれから死んでいくのです。お父さまがわたしのことについて安心してくださるように、何もかも申し上げてまいります。吉川先生の蟇口をとったのは、鈴木先生でございます。
(これは本当に、だれにも話さないでください。そして、やはりわたしがとったことにしておいてください。そして、お父さまだけが、わたしが決して悪い子供ではなかったことを思っていてください)
 その日の昼食後の休み時間に、わたしは頭が痛むので教室の中で一人で休んでおりました。する
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