して、房枝は一週間目に、鈴木女教員が学校へ出ていったあとで、その下宿の二階の鴨居《かもい》に自分の赤い帯をかけて、みずから縊《くび》れて死んだのだった。
房枝の死体をいちばん先に見つけたのは、その素人下宿の女主人だった。机の上に二本の手紙が残されてあった。一本は鈴木女教員に、他の一本は父親に宛《あ》てたものだった。
父親に宛てた房枝の遺書は意外な、あまりにも意外なことを物語っていた。
お父さま。いろいろご心配をかけて済みませんでした。お父さまがこの手紙をご覧くださるときには、わたしはもう死んでいるのですから、何もかもみんな申し上げておきます。しかし、これはお父さまに、わたしがどんな子供であったかを知っていただくためにだけ申し上げるのですから、どなたをも責めないでください。
わたしはどんなにそれが欲しいからとて、他人《ひと》さまのものをとるような子供ではありませんでした。わたしは吉川先生の蟇口をとった人を、ちゃんと知っているのです。しかし、その人はわたしのいちばん好きな、わたしのいちばん尊敬している方なのです。そしてまた、わたしをいちばんかわいがってくださった方なのです。お母さ
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