は父親を宥《なだ》めて自分でいろいろと訊いてみたのだったが、房枝の口は錆《さ》びついたドアのように動かなかった。固い決心の表情で噛《か》み締められているのだった。
「お房! おめえなぜ黙ってるんだ?」
房枝の父親は掴みかかろうとするのだった。
校長はそれを押し止《とど》めて言うのだった。
「とにかく、こうなってはどんなことをしたって訊こうなんて無理ですから、二、三日の間、鈴木先生のところへ預けることにして、学校も休ませておいて、よく気を静めさせたら、あるいは自分から言うかもしれませんから」
「意地っ張りな! ほんとに」
「では、千葉さん、あなたはお帰りになってください。房枝さんは今夜から鈴木先生のところへ泊めてもらうことにして……鈴木先生も房枝さんを特別かわいがっていたようですし、房枝さんもことに鈴木先生を慕っているようですから。……かえってそのほうが怜悧《れいり》な方法だと思いますから……」
6
鈴木女教員の手に預けられた房枝は、その下宿の一室にほとんど幽閉された形で一週間を送った。その間を房枝はろくろく食物も摂らなければ、一言の言葉も口に出さなかった。
そ
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