員は独身で若かった。彼女は優しい半面にいかめしい一面も持っていた。晴天の日の休みの時間中、決して生徒を教室の中に置くようなことはなかった。そして、それは尋常五年の従順な女生徒たちによって容易に実行されたのだった。
しかし、鈴木教員はなおも忠実に、休業の鐘が鳴ってちょっと教員室に引き揚げていってからすぐまた、自分の受持ち教室の見回りに引き返してくるのが例だった。間のもっとも長い昼食後の休み時間には、わけても忠実にそれを実行するのだった。そして、人けのないがらんとした教室の運動場に面した窓枠に、黒い詰襟の洋服がだらりとかかっているのが始終だった。真ん中から折れて、襟のほうは窓の外に、そして裾のほうが教室の中へ……。
詰襟のその洋服は吉川《よしかわ》訓導のだった。
吉川訓導は高等科を受け持っていた。甲種の農学校を卒業してから、さらに一か年間県立師範学校の二部へ行って訓導の資格を取ってきたのだった。だから、学科のうちでも農業の講義にはもっとも熱心だった。農業の実習には、わけても忠実に打ち込んでいた。
農業の実習地は第七学級の教室の裏手に続く畑だった。だから、実習の畑へ行くには鈴木教員の
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