に輝きながら、ひっきりなしにぱらぱらと散るのだった。そして、落ち葉にうずめられた運動場の一部は、まるで火の海のようにぎらぎらと陽の光を照り返していた。生徒たちは赤い顔をして落ち葉の中を駆け回っていた。白いシャツの吉川訓導の後姿がその中にちらりと見えた。
 鈴木女教員は教員室を出ていった。
 彼女は廊下を歩きながら、胸の轟《とどろ》きを感じた。彼女にとって、もっとも魅力のある数分間だった。
 教室の入口の扉が一尺(約三〇センチ)ほど開いていた。彼女は目を瞠《みは》るようにして立ち止まった。心臓が急に激しい運動を始めた。教室の中には机の上に顔を伏せて、一人の女生徒が残っていたからだった。彼女はしいて気持ちを静めようと努めながら、静かに教室の中へ入っていった。
「房枝《ふさえ》さん」
 鈴木女教員は軽くその女生徒の背中を叩きながら、低声《こごえ》に呼んだ。しかし、女の子は顔を上げなかった。鈴木女教員はその瞬間に、窓にかかっている洋服を思い出した。やはり目を覚まさないでいてくれるほうがいいのだと思った。鈴木女教員は房枝をそのままそっとしておくようにして、静かに窓際へ寄っていった。そして、しゃがむようにしてポケットの中へ手を突っ込んだ。
 房枝は鈴木女教員がポケットへ手を突っ込んだちょうどその時、顔を上げて彼女の後姿を追ったのだった。そして、房枝はもう少しで叫び声を上げるところだった。自分のもっとも敬愛している鈴木先生が、そこの窓にかかっている他人の洋服のポケットに手を突っ込んで何か探しているのを見たからだった。のみならず、鈴木先生がそのポケットの中に探り当てたものを、素早く自分のポケットの中へ押し込んだからだった。房枝は見てはいけないものを見たのだった。彼女はすぐにまた机の上に顔を伏せてしまった。胸がどきどきと騒ぎだしている。
「房枝さん、房枝さん」
 鈴木女教員はまた房枝のところへ戻ってきて、その肩を叩いた。
「房枝さん、どうかしたの? え?」
「頭が痛いんです」
 房枝は真っ青な顔を上げて言った。
「頭が痛いんですって!」
 鈴木女教員は房枝の額に手を当てて熱を診た。
「熱は大してないようね。脈は?」
 彼女は脈を診たり、心臓に手をあててみたりした。
「脈が少し多いようね。あら、心臓がばかに早いじゃないこと? こうしていても大丈夫なの? 何かお薬を持ってきてあげましょう
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