ね。静かにして寝ていらっしゃい」
鈴木女教員はそう言って、教室を出ていった。
4
午後の第一時間の授業が始まった。吉川訓導は生徒を連れて畑から運動場へ出てきた。
「じゃ、おい、みんなね、大急ぎでこの落ち葉を掻き集めてくれ」
吉川訓導はそう言いながら、落ち葉を蹴《け》って歩いた。生徒たちは、わっ! といっせいに地肌を覆い隠している落ち葉を掻き集めにかかった。
「なるべく埃を立てないようにしてくれ。そして、集めた木の葉はいまみんなで掘ってきた穴のところへ運んでいって、積んでおいてくれ」
窓にかけておいた洋服を取って着ながら、吉川訓導は言った。
「じゃいいかい。おい級長、あまり騒ぎ回らないようにするんだよ」
吉川訓導はそう言って、行きかけながらポケットの中を探った。そして、急に驚いた表情で立ち止まった。
「おい! 蟇口を拾った人はないか?」
吉川訓導はなおもポケットの中を掻き探りながら、生徒たちのほうへ戻っていった。
「拾わねえ、おれは」
「おれも拾わねえ」
生徒たちはがやがやと吉川訓導の周囲を囲んだ。吉川訓導は未練らしく探りつづけた。
「あ、田中《たなか》の奴《やつ》、おれらが畑から来たとき、ここにいて先生の服をいじってたっけが……」
「田中はどこへ行った?」
「田中は落ち葉を運んでいったから、いまに帰ってきます」
落ち葉を運んでいった六、七人の生徒が駆け戻ってきた。その中に田中が交じっていた。
「田中くん。先生の蟇口を知らなかったか?」
級長の杉村《すぎむら》が田中のほうへ歩み寄りながら訊《き》いた。
「きみはぼくらが畑にいるうちからこっちへ来て、いちばんにこっちへ来て、先生の洋服を弄《いじ》っていたそうじゃねえか?」
「ぼくはね、ぼ、ぼ、ぼくはね、先生の洋服を、ま、ま、窓へかけてやっただけだよ。ただ、窓へかけてやっただけで、弄らねえよ、ぼくは」
「では、先生の服は落ちていたのかい?」
吉川訓導は級長に代わって訊いた。
「はい。お、お、落ちていました。そして、ど、ど、ど、どこかの犬が咥《くわ》えて歩いていましたから、そ、そ、それを取り返して、ま、ま、窓へかけておいただけです」
「うむ……」
吉川訓導は軽く唸《うな》って、田中の顔を見詰めた。
「吉川訓導、どうかなさいましたの?」
鈴木女教員が窓から首を出して言った。
「え、蟇口
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