それを再度生老人への贈り物とした。
和尚と再度生老人とは、いつも小さな囲炉裏の、向こう側とこちら側とに対座して、絶えず睨《にら》みあっていた。和尚はぱふりぱふりと煙草を燻らしながら黙りこくっていた。老人はこちら側に、煙草などは見たくもないというような顔をして、何かを深く考え込んでいた。
それでも再度生老人は、私がそっと、和尚が便所へでも立った後にふところから「バット」を出してやると、和尚の前で、これ見よがしに燻らした。また卵をやると、老人はさっさと台所から小鍋を持って来て、和尚の前で、一人でうで[#「うで」に傍点]て食った。二つやっても、和尚にはやらずに御飯の時に食うのだと言って取っておいてまでも、決して和尚にはやらなかった。
「早く天神様を描いてけいんか。」と私は、幾度も寺へ遊びに行くたびごとに繰り返すのだった。
「あ、描いてやる。そのうち、気が向いたら描いてやる。」と再度生老人は言った。
「駄目なんだ。この爺様《じんつぁま》は、生きたうち気が向かねんだから……」と傍から和尚が言った。
私は、本当にそうかも知れないと思った。幾度「バット」を買って来てやっても、幾度卵を盗んで来て
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