やっても、「気が向いたら描いてやるじゃ。」と言うばかりで、決して描いてくれなかった。
「お前さんには、一生描いてやる気になれんかも知れんが、他の人になら、向くこともあるじゃ。」と老人は言った。
 すると焼和尚は、厭な厭な、雇い人からやり込められた主人のように、むっとしてしまって、すっかり黙りこくってしまうのである。おそらく、食客のくせにとでも思ったのだろう。だが再度生老人は平気だった。

 和尚はたびたび私の家に風呂に這入《はい》りに来たが、再度生老人は、一度父が綿入れをやった時来たきり、もうやって来なかった。和尚は来るたびごとに、再度生老人のことを悪く言った。
「あの爺《じじい》は、再度生老人だなんて、名ばかり偉くて、何もろくなものは描けねえようでがすな。どこから頼まれでも、俺が頼んでも、さっぱり描きいんからな。気が向かねえ、気が向かねえって描きいんでがすからな。」
「そんなごどもがすめえぞ。あの爺様《じんつぁま》は、――金のことを考えたのでは、ろく[#「ろく」に傍点]な絵は描けねえ。貧乏は苦にならねえ。いいものを描きたいのじゃ――って言ってしたがらね。」
 私の父は言った。
「なあ
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