るのじゃ。しかし、それは苦にならん。わしは、立派な絵を残せればいいのじゃ。あの和尚のような生活は、わしは厭《いや》じゃ。」
 彼は、ぱふりぱふりと煙草を燻《くゆ》らしながら、和尚の生活の淫《みだ》らなことや、吝《けち》で、彼には卵を食わせないこと、煙草も買ってくれないことなどを話した。彼の吐く煙が、彼の白い髯と一緒になって蟠《わだか》まる。
「あの和尚は、わしに、しきりに絵を描かせようとする。絵を描いてくれれば、卵も食わせるし、煙草も吸わせるというような素振《そぶ》りを見せる。だがわしは、そんなことをされると、かえって描かん。あんな色魔《しきま》のような坊主に、自分の描いたものをやりたくない。わしはそういう性分じゃ。」
 彼は、私達にはわざとらしいように思われる口調《くちょう》で言った。
 しばらくしてから、私は、「俺さ、天神様の絵を描いて呉《け》いんか。」と頼んだ。
「天神様の絵とな。どうするのじゃ。」
 父が傍《そば》から、私に代わって、私が信仰深い子供で、床の間に天神様の絵をかけて、朝晩それにお燈明《とうみょう》を焚《た》いて、お参りしたがっていることを話した。
「それはいいこと
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