いて見た。
 それは、梅の木の下に立っている菅公の像であった。梅の花の下で、私を凝視《みつ》めているように私には思われた。その真面目な、むっとした顔は、此方《こっち》の心を見すかしているようで、悪い考えを抱いたり、怠けたりすることは、出来ないような気がした。
 私は早速、自分の室の、本箱の上の壁に、飯粒で貼りつけた。そして、仏壇から小さな蝋燭《ろうそく》を持って来て、お燈明を焚いて上げた。
 その晩、貼り紙おば[#「おば」に傍点]が眇の息子を連れて湯に這入りに来た。
「あのね、そら、寺にいた再度生爺様はね、どこがさ行ってしまえしたでは。……」
 ちょっとの間も黙っていられない貼り紙おば[#「おば」に傍点]は語り出した。
「どうしてしゃ?」と私の父が訊いた。
「なうにね、和尚が、やきもち[#「やきもち」に傍点]を焼いででがす。私ね、あの爺様の洗濯をしてやったら、和尚が、そんなごどをするなって、叫び立てたりしてね……」と貼り紙おば[#「おば」に傍点]は饒舌《しゃべ》り立てた。
 なんでも、和尚が貼り紙おば[#「おば」に傍点]のことを悪く言うと、再度生老人が、お前さんはそんなことぐらい許して
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