ものを眺めたり、まるで退屈で困る顔をしているので、或る女――寺に虞美人草《ぐびじんそう》の種子を蒔《ま》くと檀家《だんか》に死人が絶えないという伝説を信じている女――などは、「あの焼和尚め、誰か死ねばいいと思って、虞美人草の花を植えやがったから」と言って憤慨していた。
 併し彼は、決して死人の出るのを望んでいるのではなく、女の出来るのを望んでいたのだ。一つは自分が好きだからでもあろうが、その頃、村の小学校には、虞美人草の花を好きな女教員がいたから……。
 町からは折々彼の細君と眇《すがめ》の息子とがやって来て泊まって行った。細君というのは、ちいさな、乾枯《ひか》らびた大根のような感じのする女で、顔中に小さな皺《しわ》がいっぱいあった。そして右の頬には、年が年中、丸い一銭銅貨大の紙が貼ってあった。で彼女は、貼り紙おば[#「おば」に傍点]と渾名《あだな》されていた。――「おば」とは、寺の細君、また大黒との意。
 貼り紙おば[#「おば」に傍点]は、寺に泊まっている間、毎晩のように、私の家まで湯に這入《はい》りに来たが、彼女は、一晩中べちゃべちゃと一人で饒舌《しゃべ》っていた。話題は大抵、和尚
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