の浮気で、やれどこの細君と関係しているとか、やれ小学校の女教員に、いくらいくらする掛け物をやったとか、一晩中そんな類の話を、幾晩も幾晩も繰り返していた。
私達には、貼り紙おば[#「おば」に傍点]の頬の丸い貼り紙が、珍しくもあり不思議でもあった。そして私達まで、彼女を真似て、丸い紙を頬に貼り付けたものだが、私は或る晩、彼女が風呂から出て来た時、彼女の頬に、穴があいているのを見つけた。
彼女は、また、ふところから、ただの半紙を出して、爪で丸く切って頬に貼った。私には、今度は、その穴が不思議になった。女が、戦争に行って、鉄砲でうたれたのでもあるまいのに?…
「お父つあん。あのおば[#「おば」に傍点]さまの、頬《ほっぺた》の穴は、なにしたのだべ?」
私は彼女の帰った後で、父に訊いた。
「あれか? あれはな、あのおば[#「おば」に傍点]さまは、黙っていられねえ性分だとや。そいつを、いつだか、黙ってねけなんねえごとがあって、饒舌《しゃべ》ったくって饒舌ったくってなんねえのを、耐《これ》えてこれえていだら、話がたまって、頬《ほっぺた》が打裂《ぶっちあ》けてしまったのだとや。」
みんなは笑った
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