百姓達は丘の上から見下して斯んな風に話し合った。そして笑った。
 赭土の中に黒い地帯がひどく目立って来たのだった。額の両側から禿上って行く禿頭の、黒い髪が中央《まんなか》に残っている前額部の形だった。併しそれも長続きはしなかった。赭い触角は両側から次第に黒い地帯を抱込んで行った。そして二年の後には、黒い地帯を全くの浮島にして了った。
 黒い浮島は、それと同時に、最早完全な水田ではなかった。水田には水田が続き湿地が続いて、温い水を保つためには相互扶助的な作用がなければならないのに、黒い浮島は例えば丘の上の耕地のようなものであった。雨が降り続けば沼になり、炎天が続くと、粘質壌土は荒壁のように亀裂が立った。雑草が蔓延《はびこ》った。その根がまた固くて容易に抜けなかった。そのために稲はひどく威勢を殺《そ》がれた。のみならず、開花期間《はなどき》もやっぱり煤煙が降り続いたので、風媒花の稲は滅茶滅茶だった。穂の長さは例年の三分の二ほどしかなかった。実のつきも無論悪かった。
「且那様。どう云うわけでごわすか、俺等の田は、今年は大へん出来が悪くて、小作米の半分も出来ねえのでごわすが、来春の春蚕《はるご
前へ 次へ
全29ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング